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桜のまち、河津のいま

公開日更新日

CRAFTRIPライター

原 万史子

河津桜まつりと河津町、共通するものとは

桜の開花時期としてはまだ肌寒い2月に、一足早く花期を迎えるカワヅザクラ。今回のCRAFTRIPの舞台は、そんなカワヅザクラ発祥地として知られる静岡県賀茂郡河津町である。

町の中心を流れる河津川沿い4kmには約850本、町全体で見ると約8000本ものカワヅザクラが咲き誇っており、2月に行われる「河津桜まつり」では町中をピンク色に彩る。新型コロナウイルス感染症流行前は、90万人を超える観光客が河津桜まつりに来場しており、河津町へ約27億円、伊豆半島地域全体で見ると200億円を超える規模の経済効果をもたらしたと言われている。

河津町を象徴するカワヅザクラがこのように注目されることは、嬉しいことであるのには違いない。一方で、カワヅザクラを前面に押し出した観光が中心となり、その他の観光資源が着目されにくく、年間を通して安定的な集客・収入を得ることができていないという問題を抱えている。

実際、年間で河津町を訪問する観光客の約60%が、例年2月に開催される河津桜まつりの時期に訪れている。河津七滝や樹齢1000年を超える楠(くすのき)など、その他にも観光資源はあるため、年間を通してまったく観光客がやってこないというわけではないが、カワヅザクラに依存する形になっているのは明らかだ。

また、一般的に桜の寿命は60年と言われている。品種や環境によっては100年、200年と、長い間花を咲かせる桜もあるが、今あるカワヅザクラが20年後、30年後には枯れてしまう可能性が0とは言い切れない。では、「河津川沿いの桜を植え換えればいい」と考えるかもしれないが、1998年から施行された改正河川法により、川沿いへの植樹が禁止されたため、それは実現できない。

河津川沿いに咲き誇るカワヅザクラの景観は、いつの日か見られなくなる。そんな未来がやってくるかもしれない……。

しかも、河津町が抱える問題は、これだけに限らない。

2023年3月1日現在、河津町の人口は6,693人。そのうち43%ほどが65歳以上の高齢社会である。2021年の出生数は25人と、10年前の2011年と比べてその数は40%以上も減少。町内に3校ある小学校は、今春1校へ統合される。

河津桜まつりで盛り上がりを見せる河津町であるが、2021年には過疎地域指定を受けるなど、だんだんと町の静けさが深まっているのが現状なのである。

河津桜まつりもこれまで通り開催できなくなり、このまま人口も減っていく一方だったら……。

そんな危惧を払拭するべく、現在河津町役場を中心に町の改革が進められている。

移住促進へ、河津の未来を担う人々

河津町役場企画調整課秘書交流係(以下、秘書交流係)の古川さんは、河津町を盛り上げようと奮闘する一人。進学を機に一度は上京したが、現在は町のために従事する生粋の河津っこである。

今回お話を伺った、河津町企画調整課秘書交流係長の古川さん
今回お話を伺った、河津町企画調整課秘書交流係長の古川さん

海に面し、町の中心を河津川が流れる河津町では、波の音や川のせせらぎが目覚ましになる。古川さんはそんな自然豊かな河津町が大好きだという。子供のころは、同世代で集まっては、釣りをして遊んだり、カブトムシをとりに行ったりと自然に囲まれているからこそできることをして遊んでいたそうだ。

「自然はここに変わらずあるのに、だんだんと必要とされなくなっているように感じます」と古川さんは言う。また、同時に「自然はつくれるものではない。だからこそ、恵まれたこの環境をもっと活かしたいんです」と、河津町にある資源が秘める可能性に着目している。

古川さんが在籍する秘書交流係は、「交流」という言葉の通り、人や文化、自然などを織り交ぜて町の充実化・発展に寄与する部署である。そして、その事業の一環として「河津町×企業」を結び合わせ、関係人口を創出するワーケーション事業が現在推進されている。このワーケーション事業を先導するのは古川さんと、「河津町まちづくりアンバサダー」を務める和田さんである。

「河津町まちづくりアンバサダー」を務める和田さん
「河津町まちづくりアンバサダー」を務める和田さん

もともと施設管理運営会社に勤めていた和田さん。退職を機に河津町を訪れ、地元の方々の人柄に惹かれ、「今度働くならこんな町がいいな」と思ったのが河津町へ移住するきっかけとなった。というのも、初めは「観光情報の発信やイベントの仕事」という仕事内容に興味があって求人に応募しただけで、地域おこし協力隊として働きたいという考えはなかったという。

「やりたい仕事がたまたま地域おこし協力隊だった」と、その始まりは偶然のようなものだった。しかし、河津町で過ごしていくうちに、「河津町をもっと知ってもらいたい」と強く思うようになった。そして、地域おこし協力隊として活動する3年間、河津町の観光PRに注力。地域おこし協力隊の任期が満了した現在は、河津町長から任を受けて「河津町まちづくりアンバサダー」として関係人口の創出という一大プロジェクトを担っている。

そんな2人が推進しているワーケーション事業は、2022年に観光庁が公募を行った「ワーケーション推進事業」のモデル地域に採択。全3回、3泊4日で企業を招き、河津町の観光をPRする傍ら、関係者と共に地域課題の解決策を考えるワークショップを開催している。

「季節にとらわれず、年間を通じて河津町を訪れてほしい」。そんな思いが込められたワーケーション事業は、2人が、町が思い描く河津町の姿を実現させるために必要不可欠なものなのである。

前述したように、河津町の人口は6,693人。毎年約100人の自然減が見られる、過疎地域である。少子高齢化が進み、町の規模が縮小されていくのは、河津町に限った話ではないのは確かだ。しかし、河津町は「カワヅザクラ」という観光資源に依存する形になっているのは事実である。

この状況を受け、現在河津町は町を挙げて移住の促進を行っている。

豊かな自然や温暖な気候、穏やかな住民……。 移住を考えている人にとって、住みやすいと思う要素は十分に揃っている。「等身大の河津町」をPRし、移住を促進する。そして、行く行くは定住につなげる。河津町を訪れる人にとって満足感の高い町づくりが河津町が目指す理想の姿への第一歩であり、今後町を元気づけるきっかけとなると考えているのである。

参考文献