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鶏焼き肉の発祥

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CRAFTRIPビデオグラファー

熊谷 拓郎

「松阪鶏焼き肉」というグルメが三重県松阪市にある。松阪牛が有名なこの地で、誰もが口をそろえて「牛じゃなくて?」と言う。

この話を聞きつけて現地へ向かった。市内を車で移動していると、ちらほら「鶏」の専門店らしき店を確認できた。どうやら噂は本当らしい。

松阪の地で生まれた鶏焼き肉の発祥には諸説あるが、「養鶏場で採卵鶏として育った親鶏を食用にした」というのが通説のようだ。日本各地の庭先で農家が養鶏も営んでいた時代、松阪市の人々はそれを食用にしようとしたらしい。

昔からある鶏焼き肉の店舗に、もっと具体的な話を聞きに行こうと車を走らせた。駐車場に着いて車を降りて店の方に目をやると、看板に「かしわ」の文字が見えた。関西地方は鶏のことを「かしわ」と呼称する。

暖簾をくぐるとレトロさの残る店内が目に飛び込んできた。お座敷に座布団、それに壁は少し黒ずんでいて、それが味を出している。お客さんはすでに入っていて、ずいぶんくつろいでいるように見える。地元の方だろうか。

店長の平岡千明さんが厨房から顔を出して、フチが太めのビールジョッキに、キンキンに冷えた水を注いで出してくれた。テーブルの上には、網焼きのコンロが置かれている。

「地元の方も多いけど、最近は市外の方も来てくれますね。徐々に認知度も上がってるみたいです」

「お店はいくつかあるみたいですが、何が違うんですか?」と気になったので聞いてみる。

「タレですね。タレ。うちのは濃いめのタレだってお客さんは言いますね」

鶏焼き肉のタレは赤味噌を使用している。東海地方で広く愛される味噌文化。松阪市の場合は赤味噌が一般的みたいだ。

「煙モクモクでね、匂いもつきますし。でもその雰囲気含めて良いって言ってくれるお客さんがうちには来てくれますね。色んなお店のスタイルがありますけど、うちはそんな感じです。でもまぁ、どこのお店もルーツは同じですよ。人の生活の営みの延長というかね。まぁ、諸説ありますけど」

どうやら、鶏焼き肉にも色んなお店があるみたいだ。

取材を一通り終えると、平岡さんが鶏焼き肉をふるまってくれた。銀皿の上に特製の味噌ダレで味付けされた鶏肉が盛られている。串焼き鳥とは違い、自分自身で焼く、というのが鶏焼き肉のルールみたいだ。

一口食べると、ニンニクと味噌の香りが口いっぱいに広がる。親鶏は採卵鶏ということもあり、肉質がしっかりしていて歯ごたえが良い。顎が少し疲れるくらいの噛み応えだけど、ビールには合いそうだ。一方で若鶏は食べやすくジューシーな感じ。これは王道の味で一般的にウケが良さそう。

一通り鶏焼き肉の味を堪能した頃には、店内は他のお客さんで溢れていた。店外からバイクのエンジンのストップ音が響いて、ライダーの何人かが暖簾をくぐって来た。新鮮な反応を見るに、市外から来た人かもしれない。

松阪の市井の生活から生まれたグルメを、地元の人や市外の人たちが味わっている。松阪の風俗を感じ取れる松阪鶏焼き肉。そんな鶏焼き肉にかかわる人たちを、もう少し追ってみたいと思う。