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時代と共に、姿を変える乾しいたけ

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CRAFTRIPライター

原 万史子

乾しいたけを日常へ

食文化の変化と共に、乾しいたけの生産量・消費量が減少傾向にあるのは、これまで述べてきた通りだ。しかし、時代の変化に合わせて乾しいたけも姿を変えているのも事実である。

臼杵市に本社を置く「王将椎茸株式会社(以下、王将椎茸)」では、新商品の開発やパッケージの改良を行うことで、乾しいたけの販売促進を行っている。

「塩ふきしいたけ」は、その取り組みの一つだ。

「調理が難しそう」というイメージが先行し、手に取ってもらう機会が少なくなってしまった乾しいたけ。「もっと手軽に楽しんでもらいたい」と、塩こんぶから着想を得て「塩ふきしいたけ」を開発した。

王将椎茸が提供する「塩ふき椎茸」 (参照元:王将椎茸公式HP https://www.ousyou-shiitake.jp/通販ページ-1/)
王将椎茸が提供する「塩ふき椎茸」 (参照元:王将椎茸公式HP https://www.ousyou-shiitake.jp/通販ページ-1/)

塩ふきしいたけは、そのままでもおいしいが、米2合と本品1袋を混ぜて炊くだけで、乾しいたけのうま味が凝縮された炊き込みご飯が作れる優れものである。このおいしさと手軽さが受け、地元の人はもちろん、観光客のお土産としても親しまれている。

王将椎茸が販売する乾しいたけには、他にも工夫がなされている。

従来乾しいたけは、トレーに並べて袋詰めされて販売されてきた。見栄えはいいが、水戻しする際に容器へ移し替えなければならなかった。そこで、王将椎茸は、パウチ状のパッケージで乾しいたけを販売。パッケージのまま水戻しができるので、乾しいたけの調理工程が手軽になった。

一見小さな変化に見えるが、この1つの配慮が料理をする際の手間を省き、日常的に乾しいたけが食卓に並ぶ追い風になるのではないだろうか。

乾しいたけ?

別府市で乾しいたけの小売業を営む「やまよし」。ここで営業部長を務める河内さんは、さまざまな工夫を凝らし、乾しいたけを手に取ってもらうきっかけづくりを行っている。

その1つが「しいたけパウダー」だ。近年欧米では乾しいたけから作ったうま味調味料が流行しており、米Amazonでは特集ページが開設されるほどの盛り上がりを見せている。「どんな食材にかけてもおいしい。しいたけパウダーは、うま味のブースターだ」と、絶賛する動画もAmazonにアップされている。やまよしでも「しいたけパウダー」の販売が行われており、例にもれず海外からの購入が後を絶たないそうだ。

しいたけパウダー以外にも、やまよしの店頭には目を引く商品がある。

その名も「しいたけソフトクリーム」。醤油としいたけの出汁を使って作られたソフトクリームなのだが、一口目にキャラメル味、後味にしいたけのうま味が味わえる、何ともくせになる美味しさだった。

やまよしが提供する「しいたけソフトクリーム」
やまよしが提供する「しいたけソフトクリーム」

誰もが「くせになる」ようで、取材中もリピーターの方々がこのしいたけソフトクリームを求めにやってきた。

「まずはおいしさを知ってもらうことが必要があると思ったんです」

乾しいたけを手に取ってもらう機会が少なくなっていると肌で感じていた河内さん。まずはきっかけづくりが必要だと感じ、乾しいたけの意外性や可能性で目を引こうと考えたのだ。

乾しいたけというと、煮物のような温かい和食を連想するはず。そう考えた河内さんは、冷たくて甘いソフトクリームなら意外性があるはずだと「しいたけソフトクリーム」を思いついたという。

「始めは怖いもの見たさでもいいと思ったんです」。観光ついでに手に取ってもらおうと、店頭でしいたけソフトクリームの販売を始めた。日本有数の温泉街である大分県別府市には、国内外から観光客が訪れる。しいたけソフトクリームは、河内さんの思惑通り多くの人に手に取ってもらうことができたのだ。

手に取ってもらえないから、おいしさを知ってもらうことができない。だから意外性で手に取ってもらうことから始めようという河内さんの戦略は、成功したと言えるだろう。

洋食 × 乾しいたけ、新たなコラボレーション

大分の乾しいたけのおいしさは、料理人の心も動かすようだ。別府市で飲食店「SUNNY FOOD CAFE & MUSIC」を営む宇都宮さんは、これだけおいしい大分の乾しいたけが地元で食べられていないことを“もったいない”と思ったという。

「大分の乾しいたけは本当においしいんだと、地元の人にもっと誇りを持ってもらいたい」と出身地の福岡を離れ、別府市で飲食店を営むことに。乾しいたけのおいしさを地元の人に届けようと、生産量日本一の大分で奮闘している。

SUNNY FOOD CAFE & MUSICでは、乾しいたけを洋風にアレンジして提供している。いくつかメニューがある中で印象的だったのは、ポタージュだ。たっぷりと乾しいたけが使われており、豊かな香りが食欲をそそる。

SUNNY FOOD CAFE & MUSICが提供する、乾しいたけを使った「ポタージュ」
SUNNY FOOD CAFE & MUSICが提供する、乾しいたけを使った「ポタージュ」

「これなら乾しいたけが食べられるって言ってくれるんです」と、しいたけが苦手と言っていたお客様にも親しまれるこのポタージュ。玉ねぎをブレンドすることで、「乾」しいたけの芳香と甘みが一層豊かになる。

こうした宇都宮さんの素材の良さを引き出す工夫は、生産量日本一の地で、乾しいたけのおいしさを知ってもらうきっかけになっているはずだ。

全国からラブコールがやまない乾しいたけ

宇都宮さんが店で使用する乾しいたけは、大分県のブランド乾しいたけ「うまみだけ」の1つ、「とよくに」。柔らかくマイルドな味わいの「とよくに」は、洋食との相性は抜群である。

多くのしいたけ生産者がいるなかでも、宇都宮さんは宇佐市のしいたけ農家を営む松重さんが栽培している「とよくに」しか購入しない。それほど松重さんの乾しいたけは、他にない特徴的な味わいなのだ。

他のしいたけ農家が複数の種類を栽培しているところ、松重さんは「とよくに」のみを育てる珍しい農家である。このとよくにを「トヨチーニ」と名づけ、ブランディングを行っている。

松重さんが育てる「トヨチーニ」。太い軸と肉厚な身が特徴
松重さんが育てる「トヨチーニ」。太い軸と肉厚な身が特徴

通常しいたけは、原木の伐採から収穫まで2年かかる。松重さんのトヨチーニはさらに1年熟成させるため、伐採から収穫まで3年もの時間がかかる。こうして時間をかけて育てたトヨチーニは、軸が太く、香りも豊かになり、従来のしいたけのイメージとは全く違うものが出来上がる。松重さんの育てた「とよくに」だから使いたいと、宇都宮さんのような全国の料理人からラブコールがくる。

元々工程が多く、収穫まで時間がかかるしいたけ栽培だが、更に時間や手間暇をかけることで付加価値を付け、全国の料理人が惚れ込むような乾しいたけをつくる。

これも、乾しいたけ再興の1つになるのではないかと思った。

消費者のニーズに寄り添って商品を販売する現在の市場。「付加価値のある乾しいたけ」というのは、「おいしいもの」を求める消費者へ効果的にアプローチする手段となりうるのではないだろうか。しいたけ業界への注目が高まるきっかけにもなるかもしれない。

松重さんは、乾しいたけのブランディングや、乾しいたけ業界の発展を第一に考えて生産しているわけではない。ただ「乾しいたけのおいしさを届けたい」という一心で生産している。私にはそう見えた。私たち消費者は、そうした生産者の思いや背景を想像しながら食文化を楽しみ、継承していくべきではないだろうか。

乾しいたけ再興の道しるべ

時代と共に食文化が変化しているからこそ、乾しいたけの提供方法を工夫してみる。単純なようだが、落ち込み続ける乾しいたけ業界再興の道しるべになることは間違いない。

加工の仕方、調理の仕方、魅せ方。それぞれ工夫できる余地は、まだまだたくさんある。だからこそ、乾しいたけ再興の物語はまだまだ終わらないし、可能性に満ちている。

うま味がぎゅっと詰まった乾しいたけを、全ての人が手に取り、楽しめるように……。

産地大分県が織り成す、乾しいたけ再興の物語。続きが楽しみでならない。