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【特別企画】かすみがうら市住民座談会

公開日更新日

CRAFTRIPライター

河合 雅士

なぜ「かすみがうら市」で暮らしているのか

⸺ 今回はかすみがうら市の旧霞ヶ浦町地区で暮らしている、中村さん・坂本さんご夫婦にお話をお聞かせいただきます。旦那様たちはお二人ともかすみがうら市出身で、同級生なんですよね?

中村 忠義:私は一度かすみがうら市を出て、東京で生活していたことがあるんです。ただ、仕事で独立したらかすみがうら市に戻ってくるっていう計画がもともとあって。なので、会社を辞めて独立をして、ある程度お客様が付いてからというのと、長男が小学校に上がるタイミングでかすみがうら市に戻ってきました。

坂本 卓弥:逆に私はずっとかすみがうら市ですね。今はかすみがうら市で農家をやっていています。以前は工場で働いていたこともあったけど、親戚のおじさんからレンコン農家に誘われたことをきっかけに農業を始めました。その後一人でやるようになったのが13、4年前ですね。

⸺ 中村さんは一度かすみがうら市から出られて、戻られているんですね

中村 忠義:長男だからというのはあったかもしれないです。やっぱり親の傍にいないとな、みたいなのが根底に多分すり込まれてたんじゃないかな(笑)。自然豊かな場所で子育てしたいというのもありました。

⸺ なるほど。一方で、お二人の奥様方は茨城県外の出身

中村 理恵:私はもともと仙台出身で、進学を機に東京に出てきたんです。そこで夫と出会って、今はかすみがうら市で暮らしています。

坂本 文:私は神奈川出身です。仕事で茨城県に住むようになって、旦那と知り合いました。

中村 理恵:宮城県出身。東京で忠義さんと知り合い結婚。夫の独立を機にかすみがうら市へ移住
中村 理恵:宮城県出身。東京で忠義さんと知り合い結婚。夫の独立を機にかすみがうら市へ移住
中村 忠義:茨城県かすみがうら市出身。洋服のパタンナーとして独立し、かすみがうら市を拠点に活動
中村 忠義:茨城県かすみがうら市出身。洋服のパタンナーとして独立し、かすみがうら市を拠点に活動

⸺ お二人は結婚ということをきっかけに、かすみがうら市での生活を始められたかと思いますが、いわゆる“田舎暮らし”に抵抗は無かったですか?

中村 理恵:かすみがうら市はせかせかしていないイメージがあって、単純に引越しという意味ではワクワクしました。でも、最初はすごく不便だなと思いましたね。どこに行くにも車じゃないと行けないし、この辺では自転車に乗っているほうが不思議な感じです。ここに来る前は、歩いてコンビニとかスーパーがあるような場所にしか住んだことなかったんですよね。

坂本 文:夫が農業をやっていましたけど、私はもともと土いじりに興味が無くて。最初にかすみがうら市に住むと聞かされた時は、「私はやらないからね」って言いました(笑)。だから最初は別々の仕事をしていたんです。レンコンの田んぼって、普通のものと違うんですよ。ずぼっと体が浸かりながら作業をするので。それで体が汚れるということもあって、イメージが悪かったんです。でも自宅の土地に畑があって、実際やり始めてみたら楽しくなってきて、できるかもって思えるようになったんです。二人でやってみようってなったのが5年くらい前でした。

⸺ 移住となると、見知らぬ土地での地域住民とのコミュニケーションも欠かせないですよね

中村 理恵:周りの人とは、子供を通じてつながることが多いです。習い事や、旦那を通じて人脈が広がっていく感じで。

中村 忠義:意外にすぐ馴染んだよね?

中村 理恵:馴染まないとやっていけない(笑)。いつまでもぽつんとしているわけにもいかないから。子供が誰かと遊んで、そこから広がっていくのがやっぱり多いかな。

坂本 文:うちの場合は、最初は同じ保育園に通う子が近所にいなかったので、うまくやっていけるかドキドキしました。でも、やっぱり子供同士が仲良いと、親も話すようになるよね。

中村 理恵:つくば市に住んでいたことあったよね?

坂本 卓弥:そうそう。子育てのために、嫁と子供がつくば市に住んで、俺は農業をやっているからかすみがうら市に残って。一人目が生まれた時は大丈夫だったけど、二人目の時は実家が手狭になったから。ただ、自分たちの家を建てるのはまだちょっと難しくて。下の子が小学一年生になるタイミングで、こっちに帰ってきたけど。

中村 理恵:あと、“田舎あるある”なのかもしれないけど、車が家にとまっていると、「今日は休み?」って聞かれたりするよね。

坂本 文:良くも悪くも見守ってくれているのかな。情報共有をしたがるというわけではないと思うけど、みんなのことはみんな知っていたいみたいなものがある。だから、いろいろ聞かれるのが嫌だと思う人には、かすみがうら市のような田舎で生活するのは難しいかも。でも、そういうのが全然気にならない人には素晴らしいところだよね。

坂本 卓弥:いろいろな人とつながりができて、今では妻の方がいろいろな情報を持っている気がする。

中村 忠義:うちもそうかもしれない。

かすみがうら市における子育てのリアル

⸺ 子育てをするという点で、かすみがうら市での生活はどうですか?

中村 忠義:もともとここで生まれ育ったこともあって、都会のマンション住まいというのが想像できないんですよね。一軒家で育ったので、庭付きの一戸建てで子育てをする以外のイメージが湧きませんでした。

坂本 卓弥:自分は都会のゴミゴミしたところに行くなんて考えられないというか。都会には確かに便利なものはいっぱいあるだろうけど、家の玄関開けたらすぐ横に家があったりとか、プライベートがすごく近いじゃないですか。つくば市に住んでいたころ、ちょっとした物音を立てて、下の住人に「うるさい!」って言われたりしたこともあったけど、田舎にはそういうのはないじゃない。近所でうまく協力し合えば問題なくて。

中村 理恵:この辺りの子供がいる家庭って、意外にそのまま住んでいる印象もあるんだよね。

坂本 卓弥:うちらの同級生もみんな残っているからね。

中村 理恵:そう考えると、みんながみんな、外に出たいというわけではないのかな。子供同士もここでつながっていたり、お父さん同士がそうやってかすみがうら市に残っているから。

中村 忠義:自分の子供には好きなところに行っていいよとは言っていますけど、「ここが好き」と言ってくれている。

坂本 卓弥:うちの子も「東京なんか行くか!」って言ってるよ。

坂本 文:人混みが嫌だって言ってるもんね。

⸺ 旧霞ヶ浦町地区の子供たちは、普段どのような遊びをしているんですか?

中村 忠義:子供たちはどこかの家に行って、YouTubeを見たり、ゲームをやったりすることが多いです。ゲームはマイクで話しながら通信もできるので、ゲームの中で待ち合わせして遊びに行ったりしていますよ。

中村 理恵:子供が自由に遊べる場所って、そこまで多くないからね。親が毎日のように公園に行くのは難しいし。

坂本 卓弥:自分たちが子供のころは、学校が終われば勝手に待ち合わせをして、遊んで帰って来ていたけど、今はそういうのはないね。

中村 忠義:最近はイノシシが出たりもするし。

坂本 文:あと、うちの場合は周りに子供が少なくて、同じ年代の子が近くにいないから、そうなると一緒に遊ぶのが難しかったりする。後は習い事で忙しかったりもするのはあるかも。

坂本 卓弥:ゲームで遊んだりするのは、全国どこでもそうなのかな。

坂本 文:でも、うちの次男なんかは、自転車でプラプラ勝手に行っちゃう。近所のおばあちゃんの家の周りをグルグル回るような、自分のサイクリングコースがあるみたいで。霞ヶ浦沿いって、堤防があったりで危なかったりするけど、そのおばあちゃんが結構見ていてくれたりするから、安心感があってありがたい。

坂本 文:神奈川県出身。仕事で茨城県に移住し、その後結婚を機にかすみがうら市へ
坂本 文:神奈川県出身。仕事で茨城県に移住し、その後結婚を機にかすみがうら市へ
坂本 卓弥:茨城県かすみがうら市出身。生まれてからずっとかすみがうら市で暮らし、今はレンコン農家を営んでいる
坂本 卓弥:茨城県かすみがうら市出身。生まれてからずっとかすみがうら市で暮らし、今はレンコン農家を営んでいる

中村 忠義:自分たちが子供のころは、学校が終わると山を駆けずり回って遊んだりしていたんだよ。最近は公園も少なくなって、山に入ると危ないようなことも増えてきて。子供たちが自由に遊べるような場所が減ってしまったのはかわいそうかな。

坂本 卓弥:昔は公園とかじゃなくても、神社とか空き地を見つけて遊んでいたりしたよね。稲刈りの後の畑で野球したり、夏はカブトムシを捕まえられるような場所があったり。広場で缶蹴りやったりさ。

中村 忠義:昔は気にせずに遊んでたけど、今は畑に入ったりしたら怒られちゃうからね。

坂本 卓弥:うちの住んでいるところは、集落に2人しか小学生がいないんだよ。この先を見ても、うちの子が卒業しちゃったら、その後もずっと子供がいない状態になっていて。年配の方もどんどんいなくなっていって、小っちゃい子もいなくて、本当に人がいなくなってしまうんじゃないかという感じがあるんだよね。

不便なこととのトレードオフで得られるかすみがうら市の生活

⸺ 2022年4月には旧霞ヶ浦町地区が過疎地域指定されましたね

中村 忠義:周りを見渡しても、明らかに空き家だなってところは目に付きますよね。私たちの家も空き家をリノベーションしたものなんです。結構立派な家もあるので、リノベーションして、新しく住んでもらえるといいんじゃないかなとは思います。もったいないなって。そういった空き家を壊して更地にして、太陽光発電になっちゃうのは少し残念です。

坂本 卓弥:気が付いたら、おじさん、おばさんばっかりだもんね。若い人が出ていって、人も亡くなっていって、だいぶ減っているな、この先どうするんだろうな、というのは感じる。

中村 忠義:自分の場合戻ってきたのは、長男だからというのもあったと思う。ただ、かすみがうら市に残るにしても、仕事に関しては自分のやりたいものに就きたいとは思っていた。小さい頃から母親が洋服の縫製をやっていたんだけど、今の仕事に就いたのはその影響もあって。パタンナーの仕事は場所を問わずに、かすみがうら市でも問題なくできる。今の時代、パソコンやメールで仕事は進められるから。

坂本 卓弥:自分の子供には、「出ていきたいのであれば、出ていってもいいよ、自分の人生なんだから」とは言ってる。

坂本 文:一回外に出て、他を知って、こっちの良さを知って戻ってきてもらうでもいいよね。いろんなことを勉強して、遊んで、戻ってきたいのであれば、戻ってくればいいと思う。

進学・就職を機に、市外へ出ることが多いかすみがうら市の子供たちだが、中村・坂本両夫妻とも、子供たちには好きなように生活を送って欲しいと語ってくれた
進学・就職を機に、市外へ出ることが多いかすみがうら市の子供たちだが、中村・坂本両夫妻とも、子供たちには好きなように生活を送って欲しいと語ってくれた

⸺ 都会に比べると、生活する不便さというのはあると思いますが、実際にかすみがうら市で暮らしてみて不便に感じることはどのようなところでしょうか?

中村 理恵:ここは車社会だから、例えばお酒を飲んでしまうと、もう買い物に行けなくなってしまうんですよね。(旧霞ヶ浦町地区の多くは)歩いて行ける距離にスーパーやコンビニはないんです。「あれが食べたい」と思っても、あるものでなんとかしなきゃいけない。だから、我慢することはありますよね。

坂本 文:都会だったら、宅配を頼めばすぐ来るじゃない。でも、こっち(旧霞ヶ浦町地区)は、家まで来ないでしょ。私たちが取りに行かなきゃいけない。結婚してからこっちに来て、「ピザを頼もう」と言ったら、じゃあコンビニまで取りに行こうって言うんですよ。「家まで来るんじゃないの?」って思った(笑)。

坂本 卓弥:旧霞ヶ浦町地区の場合、土浦市と境目のコンビニまでしか来てくれないからね。

坂本 文:配達圏外だと、コンビニで待ち合わせしなきゃいけなくて。面倒くさいから、もう自分たちで作ろうってなる。

中村 理恵:そうそう、無いなら作ろうってなるよね。

坂本 卓弥:「もしかしたら来てくれるかな」って電話してみたら、どこどこのコンビニまで来てくださいって言われる。

坂本 文:この前、車で都内まで車で行ったの。そしたらUber Eatsが一杯いて。「あーっ、見たことあるやつだ」って(笑)。

中村 忠義:だから、かすみがうら市から初めて東京に出て行った時は、いろいろなものがあって楽しかった。学生の時は、ここから東京の専門学校に通っていて、たまに地方から東京に出てきていた友達の家に泊まりに行ってたけど、やっぱり憧れたよね。酒が足りなくなったら、歩いてコンビニまで買いに行こうって。歩いて行ける距離に色んなものがある。

坂本 文:でも、かすみがうら市での生活も良いところはあるよね。犬を飼っているけど、犬の散歩はどこ歩いていても、誰にも何も言われない。つくば市に住んでいた時は、そこに入っちゃダメみたいなところが多かったけど、ここでは散歩コースに不自由しないし、景色も良い。家は湖岸沿いだから、散歩していると霞ヶ浦から朝日が昇ってくるのが見えたり、そういうのがすごく素敵で。確かに買い物で不便とかはあるけれど、住めば都というか。

中村 理恵:夏は庭でバーベキューもできるしね。

坂本 卓弥:庭でバーベキューができるのは田舎の良いところ。煙とかもそれほど気にする必要がないし。

坂本 文:花火とかも都会だと怒られちゃう場所も多いけど、家の庭でできちゃう。

⸺ ペットのお話が出ましたが、かすみがうら市のような場所だと飼いやすかったりするんですか?

坂本 文:うちの犬はあまり吠えないんですけど、吠える子はちょっとしたことで吠えちゃうから、近所を気にしなきゃいけないです。こっちだと都会ほど気にしなくても大丈夫だよね。

中村 理恵:確かに誰も気にしていないような気がする。

坂本 文:こっちはそういう心配がないかな。

⸺ 最後になりますが、そのほかに、かすみがうら市に移住するとこんな良いところがあるということはございますか?

中村 忠義:思いつかないな(笑)。でも、何も無いところが良いところとも言えると思うんですよね。(茨城県が)魅力度ランキングで最下位になったりしてますけど、そういうところを気にしない人がいっぱい住んでいるのも、のどかで良いです。近くにゴルフ場がありますし、釣りもできるし、霞ヶ浦沿いを車で走ると気持ち良いです。水辺をよく走るんですけど、そこから土浦に抜けるコースがすごく綺麗なんです。歩崎公園から自転車で走るのもいいですよ。

中村 理恵:霞ヶ浦沿いや霞ヶ浦大橋を走ると、景色や星が本当に綺麗なんです。(子供たちが)外で遊ぶとなれば、あじさい館の広場もいいかな。後は、夏には家の庭でバーベキューができるのも、かすみがうら市に来て良かったなと思えるところです。

坂本 卓弥:自分はここがオススメってなると難しいな。都会の人が良いって言ってくれているところも、自分にとっては当たり前のことだったりすることも多くて。ただ、都会に行けばいろいろあるかもしれないけど、それと同じくらいマイナスな部分もあるような気がしている。都会にはそういうリスクもあるんじゃないかな。かすみがうら市のような場所だと、必要以上に周りを気にしなくても生活できる気楽さがあって、そこは気に入っている。

坂本 文:私は最初かすみがうら市に来た時、すごいところ来ちゃったなと思った。でもレンコン畑には春夏秋冬全部に美しい景色があるんですよ。夕日が田んぼに当たるとすごく綺麗。秋冬は、霞ヶ浦の堤防沿いにダイヤモンド富士が見えるんです。だから、景色の素晴らしさは、本当にオススメしたいです。

取材は、空き家をリノベーションして暮らしている中村夫妻のお宅で。庭は広く、普段からバーベキューなどを楽しんでいるとのこと
取材は、空き家をリノベーションして暮らしている中村夫妻のお宅で。庭は広く、普段からバーベキューなどを楽しんでいるとのこと

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